IB―インスタントバレット 願いと悪意
世界崩壊を望んだ時
手の中に、世界を終わらせるスイッチがあったとしたら
彼らは当たり前の風景を手に入れることが出来なかった。
だからこそ、そんな風に仕向けた世界を憎んで、世界なんてものは終わってもいいと思ったのだ。
そんな彼らが、当たり前から外れてしまった彼らが、『特別』を手にしたらどうなるのだろうか。
世界を壊すに足るだけの理由はこの世には無いのだろう。もし、世界が終る時がくるとしたら、それはちょっとした間違いか、この世界を知らない外部から来た何かによるものだろう。
多分、人類が望んだところで人類は終わりはしない。
僕も今までに何度か世界など終わってしまえと思ったことがある。もちろんそれは、そのときの感情に振り回された結果だ。
おそらく、何かしらのカタチで当たり前を享受できなかった人は「世界の終わり」を望んだことがあるのだと思う。
しかし、終末なんてものはこの世には無くて、僕らの悪意を向ける先は無くて、ただ漠然と世界を憎むしかない。
そんな状況下で生きてきた人間が、世界を壊す力を手に入れてしまったら、世界は終わってしまうのだろうか。
これは、そんな物語。
世界を壊す20の弾丸
◆この作品について
この世界には人がいる。
この作品が私に与えたのは、「傷」と「人」だ。
もちろん、ストーリーも設定も心を揺さぶるものなんだけど、どうしようもないくらいに鮮烈に描かれる「人」とその「傷」が私の中身に入り込む。
だから、こんなにも感想を書きにくいんだ。
傷だから、触れずに遠ざけておきたい。けれど、傷と人が私に与えるものは途方もないモノで、他の作品じゃ得られないものがここにはあって、だから私はただただうずくまっていたんだろう。
あんまり、こういったことを書くことは無いと思う。
大抵の場合は、人と人の間がいいとか、全体を包む雰囲気がいいとか、そういったいわば「あいだ」について言及することが多いのだけれど、この作品に関してはどうしようもないくらいに「人」が結晶化されている。
多分、世間一般でいう普通の人生とは違って、世界の端っこに近い側にいた人間は抉り取られるものがあると思う。
台詞で切り取ってもいいのだけれど、やっぱりそこに至るまでの過程も観てほしいのでどうしようもないんだ。
やっぱり私はこの作品に対して随分と無力だ。
言葉が出てこない。
あのまま見てくれとしか言いようがないんだ。
◆赤坂アカという人間
もしも、もしもだが、まだ「IB―インスタントバレット」を読んでいない人がいるとしたら、読むのはこの項目だけにしておいてほしい。
この項目までは客観的な部分しか触れないように心がけるつもりである。もちろん、私がどのように見たか、ということになるが作品については以下でしか語らない。
だから、どうか作品を見てほしい。
それ以外にこの作品の全てを伝える手段はないと思っているから。
それぐらいに、私は好きな作品に対して無力なのである。
私が赤坂アカという人物を目にしたのは、とある作家がツイッター上でべた褒めしていたからである。それで興味を持って作者のツイッターを覗いてみると、なんとコミックウォーカーで連載されているとのことであった。読んで見るとたまらないんだな、これが。その良さは実際に見てもらいたい。
私なんかは、その日の内に作品を買いに行った。
そしてその次の日には、ピアノソナタを買いに行って、それから原作を買うところまで来た。
それくらいにドハマリした作家である。
外側の部分について書くとするならば、「編集が上手」というところだろうか。「見せ方が上手い」と言ってもいい。
つまり、一番伝わる構成が作品のなかで展開されている。
ピアノソナタのときにも思ったことだ。原作のすべてを描ききることは出来ないにも関わらず、作品は先鋭化され結晶化されていた。
なんというか、すごく「純度」が高かった。
こんなに綺麗に纏めあげることができるのかと、原作を読んだときに思った。
それがこの作品にも活かされている。
作品に出てくる「人」が一番輝く魅せ方をしている。
少し内側に入ると打ち立てる「問い」が魅力的だというところだろう。
これに関しては作品の中に立ち入ることになるので割愛します。
本当に魅力的な描き方をする人だと思っています。
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◆世界を終わらせるに足る理由
世界を壊す方法について昔語り合ったことがある。
それも丁度中学二年生の頃に。
その時は、世界に対する憎悪なんてものはなくて、ただ、なんとなく手に取った科学雑誌を片手に友達とそんなことを話し合っていた。
勿論のごとく、今思い出してみても杜撰なアイデアだった。
けど、仕方がない事なんだよな。
人間ってやつは往々にして無力な存在なんだ。
ちょっとした不運や悪意が積み重なるだけで排斥されるんだ。
世界に対して人間は無力なんだ。
もし、もしもだ。
世界に不意打ちを与えられるだけの「力」を手に入れられたらどうだろうか。
僕は変われるのだろうか。
世界を、変えられるのだろうか。
多分、私がそんな「力」を手に入れたところで、何事も起きないだろう。
というよりも、世界を革命することはできないだろうな、と思う。
どこまでも中途半端な私は世界を終わらせることもできないし、世界を革命することもできないだろう。
世界を革命する物語なのだろうか。
どうするんだろうか。
世界をどうしたいんだろうか。
彼らは、彼女たちは。
世界を壊して、終わりにしてしまいたいんだろうか。
世界を壊してどうするんだろうか。
私ならどうするか。
どうなったら世界を壊してしまうだろうか。
世界を再生する物語は良くあるが。
世界を崩壊させる物語は聞かない。
世界を崩壊させてどうしたいのだろうか。
何のために、世界を破壊したいのだろうか。
悲しみの連鎖を断ち切るためには世界を終わらせるしかないのだろうか。
物語の果てには変わらない結末として「世界崩壊」が待ち受けている。
どんな理由で世界を終わらせるのだろうか。
世界を終わらせるに足るだけの理由が、この世にはあるのだろうか。
いや、個人にそれだけの理由が持てるのだろうか。
世界を壊してしまうだけの。
もしも、世界が壊れる時が来るとしたら、それは何かが間違ってしまったときだろう。
世界の崩壊を望むような人間がどこにいるのだろうか。
どれほどの絶望があったのなら、世界を終わらせようと願うのだろうか。
世界を壊すに足る理由。
人は変われない
だから世界を終わらせる
彼女が願う
だから世界を終わらせる
etc
世界が終わってもいい理由なんてあるのだろうか。
私を取り巻くすべてが終わってしまえばいいと願ったことはあるが、世界そのものを終わらせたいと願ったことは無い。
見ず知らずの人にまで悪意をぶつける。
それはどんな気持ちなのだろう。
◆この世界は終わってもいい
私が疑問に思っているのは十色のこの台詞だ。
「ねえクロ この世界はきっと終わっても構わない」
終わっても構わないということは、終わることと終わらないことが等価値であるということだ。生と死が等価値だといったカヲル君が想起させられる。
どんな考え方をしたら、どんなことがあったら、生と死が等価値になるのだろうか。
終わっても構わない。
私は憎悪が一定のラインを超えた時に、こんな世界終わってしまえ、と思った。
けれど彼女は、十色は世界は終わっても構わないといったんだ。
それは世界が存在している価値が無いということだったのだろうか。
終わっても終わらなくてもいい。
世界があっても無くても私は変わらない。
どうあったら、そんなことを思ってしまえるのだろうか。
その想いの果てには何があるのだろうか。
◆登場人物
普通を享受できなかった子どもたち。
●セラ
見つけた 私の敵
そしたら英雄!正義の味方!!私たちが世界を救うの!!
ヒロインヒロインしてる可愛い可愛い女の子。
すっごいキュートでヒロイン力を所々でまき散らしてくる。
かわいそうな背景に、それでも前を向いて戦おうとするところが可愛くて仕方がないっすね。
―――――――――――――――――
行動原理が歪んでいる正義の味方って魅力的だよね。
『敵』がいないこの世界で見つけた『敵』
悪意ってものは基本的に自分の内側で醸成されるものだ。
そしてそれは一定のラインを超えない限り外側には向かない。
だから、人はそれを内側に閉じ込めておいて時折どこかで発散したりするわけです。
そうして吐き出された悪意や理不尽が積み重なると悲劇が起きる。
だから、この世界には明確な『敵』がいない。
いつだって降りかかるのは積み重なったモノだから。
この子は良くも悪くも子どもだってことだ。
それも飛び切り頭のいい子供。
だから、自分の境遇が誰かのせいではないことは解っているし、
内側にある悪意は特定の個人に向けられるべきものではないことも分かっている。
そうすると、ただ漠然と「世界」を憎むしかないわけだ。
そんな中で見つけた「悪」という「敵」
悪者にはどれだけの暴力を与えても「正義」である。
だから、自分の悪意をどれだけぶつけても私は正当化される。
漠然と世界に向けられていた悪意が収束した先には何があるのだろうか。
●黒瀬
この世界のすべては敵だ
僕は 君の悪意を引き継ぐよ
本作の主人公。
彼の独白はお一人様の人間には深く突き刺さる事だろう。
世界を憎んだ少女、正義の味方、恋する少女、やさしくなりたいひと。そんな人たちの間の中で彼は何を思い、世界に向けるのだろうか。
―――――――――――――――――
彼女の悪意を引き継いで、世界を終わらせる。
中途半端な人間だと思っているが、それだけに心に刺さるんだろうな。
彼の慟哭が一番心に突き刺さる。
僕はまた 何もできなかった
何もできないまま いつかこの怒りと衝動を忘れていく
何もしない自分を受け入れていく
人間は学習する生き物だという。
けれど、歴史は繰り返すともいう。
どうして僕らは変われないのだろう。
変われない人間だからだろうか。
こんなにも辛いのは。
どうやったら人は変われるのだろう。
●魔女
遠くない未来 そんなキミに
私は恋しちゃうんだってさ
出会うたびに意味深な言葉を残していく彼女。
魔女と自称しているように、それにふさわしい恰好をして、相応しい行動を取る。
そんな彼女の未来はどこにあるのだろう。
―――――――――――――――――
この本を読んだキミは遠くない未来に魔女さんに恋しちゃうんだってさ。
嬉しそうに笑う彼女を見てしまったら恋に落ちるさ。
未来は変わらないんだよ それはもうびっくりするくらい。
可愛いです。以上。
●十色
ねえ クロ
この世界はきっと終わってもいい
クロの悪意の根源にいる人。
彼女の悪意は魅力的だ。彼女の絶望が体の中に染み込んでくる。
多分彼女は間違ってなくて、正しいんだ。
世界は終わってもいい。
―――――――――――――――――
世界を壊すのだと言って彼女がやったのは、自身の世界の崩壊だ。
彼女を取り巻く世界を崩壊させただけだ。
しかし、それだけではないのだと思っている。
多分、彼女の放った弾丸は世界を貫いていないんだ。
そもそも世界に向けてすらいないのかもしれない。
もしかしたら誰かの下に辿りついて根を張っているのかもしれない。
彼女の悪意に辿りつきたい。
●その他
他にも木陰ちゃんとか諸木とかいろはとか(カラフルの面々はイマイチつかみ切れていないが)魅力的な人がいる。
特に木陰ちゃんと諸木は色んなものを魅せてくれた。
けれど、ここには書かないでおきます。
◆問いの答えを求めて
私は初めにこの物語は「傷」であり「人」の物語であるといった。
彼らが抱える傷はいくつかの「問い」を生み出す。
この「問い」というやつは、普通に過ごしていたら考えなくても済んでしまうようなモノだ。
それは「友情」「愛」「優しさ」「恋」「自分」「人生」「世界」「善」「悪」なんて言ったものだったりする。
普通の人は見逃したり、無視してしまえる問いなのだけれど、足を止めた人間にはどうしようもなく大切な問いになる。
答えってやつは自分で見つけなくてはいけないものかもしれないが、何かに縋ってしまいたくなる。
この物語にその答えがあるのではないかと探してしまう。
多分、その答えは彼女たちがなんらかの形で、彼女たちらしい答えを出してくれるのだと思う。
そしてそれは、自分が抱える問いになんらかの影響を与えていくのだろう。
だからだろうか。これほどまでに惹かれてしまうのは。
描かれる「人」が持っている「傷」とそこから生まれた「問い」とその果てに出す「答え」
それが知りたいのだろう。
だからこそ、黒瀬が気になるんだ。
彼は、彼女たちと関わっていったその果てに、どんな「答え」を出すのだろう。
終わった世界でどんな”意味”を見出すのだろう。
物語が完結したら私なりの”意味”を籠めて書きたいと思う。
それでは
答えの先で会いましょう。