huzai’s blog

「ぼっちの生存戦略」とか「オタクの深化」とかそういうことについて考えています。

言壺 綺文 感想

 

『わたし』『母』『姉』『父』『赤ん坊』

◆言壺―綺文―

言壺とはいくつかの短編から成り立っている小説のようである。
いや、もしかすると短編集ではないのかもしれないが、今の私にそれは分からない。
それは、まだこの一編しか読んでいないからである。

にも関わらず、私に充分な刺激と満足とを与えてくれた。

つまり、たったの数十ページで背後から鈍器で殴られたような刺激を与えてくれたわけだ。

 

◆なんの文章をつらねるのか

それではぶちこわしだ。観客に楽屋裏をみられるようなものだ。種をあかした手品になっちまう。
――言壺 綺文 

 

この本の中身を語ることにどれだけの意味があるのだろうか。

いや、この作品がもたらす刺激の背景を語る、という行為はなされるべきか、
とした方がいいだろう。

私はこの一編に対して何を語るべきであるのか。


◆物語の中心は……

今までの作品の多くは【】を揺さぶるモノであった。

作品に生きる人間】に心を打たれたり、恋い焦がれたり、涙し、憧れた。


そうだな、【作品の中心には人間がいた】とするのがいいだろう。
ライトノベルやゲーム、アニメやWEB小説なんかは大抵そうだ。

【物語の中心を飾るのは人間であった】

それもそうだよな。
面白いストーリ―展開があって、魅力的なセカイがあっても、そこで生きる人間が居なければ、物語は生まれなかった。

【危害を加えるのは人でしかなかった】

私の心を苛立たせたのも、喜ばせたのも、悲しませたのも、驚かせたのも、笑わせたのも、人間であった。そのセカイに生きる人間が私に影響を与えていたのである。


しかし、【この一編の中心は人ではない】と思っている。

 

【物語の中心は物語である】
【危害を加えたのは物語】

 

ラブロマンスを読めば、脳内の快楽中枢や神経が刺激されるだろう。おれは脳のその部分ではなく、言語中枢そのものを揺さぶってやりたいんだ

――言壺 綺文 

 

なんらおかしくない文章であった。

普通に読んでいれば『言葉』と『機械』について語り合う二人がそこにいた。
その内容だって面白い。彼ら一人一人の発想や思考を追うこともまた、1つの楽しみだろう。

けれど、最後に私を殴り飛ばしたのは【物語】だ。
】ではなく、【物語】がいつのまにか敵にまわっていた。


【物語が私の言語中枢を破壊した】


人でも、思想でもなく、【ただの物語】が私を狂わせた。
そして、その狂う様でさえ、物語の明示されている通りであった。

一応書いておくと、伏線とかそういった類の話ではない。
【物語という一つの生物】による刺激である。

人によっては刺激では済まないかもしれない。
共感した人も理解しようとした人も言語中枢を揺さぶられるだろう。

ちゃんと小説になっていて、しかもその文章で直接読者の言語中枢を破壊してしまうようなパワーをもった、物語だ。
――言壺 綺文

 

一通り読み終えた後に感じるのは、『確かに、人間の頭はそれでこわれるほど硬くはなかったな』ということだろう。


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◆ニューロキアン

「連中は、連中にとっては、会話はほとんど音のやりとりにすぎない。意味などない。少なくとも深い意味は送受していないよ。で、深い意味、たいていはシリアスなやりとりはどうするかというと――ニューロマシン、ワーカムを使う」
「……そうだな。たしかにそうだ」
「ワーカムが、『あなたの伝えたい気持ちはこうなのか?」と、文章の組み立てを支援する。ニューロキアンにとってワーカムは脳外に出た言語中枢なんだ。マン・マシンのハイブリッドだ。ワーカムなくして言語のコミュニケーションは成り立たなくなっている。彼らの言語中枢は、おれとおまえのものとは異なっているにちがいないんだ。
――言壺 綺文


BEATLESSに出てきた「考えた気持ちにさせてくれるシステム」が思い出される。
あちらでは、ニュースに関連した意見や詳細が画面に現れ、まるで自分が考えているかのように錯覚できるシステムが構築されていた。

以前書いた「考えることをアウトソースする」ってのに近い。
まとめサイトとか、ツイッターとか、ブログとか、そういうものを自分の思考にすり替える。実際は外面だけ借りているだけなのだけれど。

それがより自分のものらしく感じられるのがワーカムなのかなぁと思っている。

◆言葉

「言葉は、物理的に人体に作用するんだ」
「核ミサイルなど必要ない。一文で充分なのだとしたら……」
「人間の言葉はすべて偽りといってもいいんだ。それでは現実は崩れるから、すべて正しいのだ、ともいえる。」
「人間にとって言葉は論理式じゃない。」
「言葉が現実を構築していくんだ。ルールに従って、だ。おれはそのルールそのものに干渉して、それを証明してやりたいんだ。おれの文を受け入れる人間は、現実がいかに危うく変化するものかを体験するだろう。」
――言壺 綺文 huzaiによる抜粋

まだ、纏まらない。が、読み終えるころには一つ、【言葉】に対する文章を書きたいものだ。
言葉だけでなく、【言語装置としての人間】もまた見つめ直したい。

 

 

言壺 (中公文庫)

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